箱 庭
我が国には、大勢の国民がいる。
しかし、我が国の国土は狭く、皆でひしめきあって暮している現状だ。
しかも、毎日のように外の国より移民者がやって来くる。
その誰もが、着の身着のまま、単身でやって来るのだ。
だから、国民は皆、外の世界を目指す。
移民者すら、最後には外の世界を目指すのだ。
「オレは、広い世界に出たいんだ!!」
そう言っていた、同年代のアイツは、もうここにいない。
彼は選ばれ、そして言葉通りに旅立って行った。
「お前もいつか来いよ!! 待ってるからな!!」
そう言った彼の言葉が、今でも耳に残っている。
外の世界を目指しても、国民全てがそこに行けるわけではない。
選定を受け、そして選ばれたモノのみ、そこへ行けるのだ。
選定を下すのは、我々の国では道の力だ。
時折、その乗り物がやって来ては、選ばれたモノを外の世界へと誘う。
しかし、選定を受けたからといって、全ての国民が易々と外の世界へ行けるわけではない。
その乗り物は、どうやら何か検査をする装置でも組み込まれているようである。
時折、選定されたモノすら外の世界へ運んではくれない。
選定者の気に触る何かをしたのか。
それとも、単に彼らの気まぐれなのか・・・・・・。
我々にはそれは解らない。
選ぶものと選ばれるもの。
我々と選定者には、天と地ほどの差があるのだ。
「やったよ!! オレ、外の世界に行けるんだ!!」
涙さえ流しそうな勢いで、また今日も選ばれたモノが旅立って行く。
私は、それを見送りながら、いつか自分の選ばれる日を願い続ける。
例え、永久にこの狭い国から出ることができないとしても。
「やったね」
取り出し口から出てきたそれを掴み、男が言った。
「ヨシキくんってば、本当にこれ得意だよね」
誰にでも一つは特技があるって本当だね。
女は言って、笑いながら男の手からそれを受け取る。
「それ、オレには他に特技もないってことかよ」
男が不満げに言うと、
「もう、冗談だよ!! それより、これ本当にありがとう」
「良いって。オレもこれ、やるのは好きなんだけど……」
ちらりと、女の持ったそれを見やりながら、
「この年齢で、それ持って横道歩くのはキツイ」
少し頬を染めた男がポツリと言うと、女は笑った。
「大丈夫だって!! ヨシキくんが人形持って歩いてても、誰も笑わないよ」
大きなクマの人形を抱きしめながら、女は楽しそうに笑った。
(2006.5.28 桜葉吉野)
初出:超短編小説会ショートショート投稿