満腹と空腹


最近のボクは、いつもお腹がいっぱいだ。

だから、いつもお腹がパンパンに脹れている。



最近、というか常に、ボクはお腹が空いている。

お腹は常にペチャンコで、スカスカだ。



ボクがいくらお腹がいっぱいだと言っても、次から次に食べ物がやって来る。

白い食べ物や、茶色の食べ物。

カスカスした感じのするモノに、ちょっと胃にくるドッシリしたモノ。

少し軽めの茶色い食べ物が、特に多い気がする。



ボクがいくらお腹がすいたと言っても、そう易々とは食べ物が来ることはない。

女の人が描かれたパッケージの食べ物に、男の人が描かれたパッケージの食べ物。

どうでも良い話だが、少し前にパッケージの絵柄が変わってしまった。

ボクは、あの人の良さそうな男の人の絵柄がとても気に入っていたので、残念だ。



時々、ボクのお腹が余りにもはち切れそうなのを見かねて、

『お母さん』がお腹の中を掃除してくれる。

白いカスカスした感じのヤツを纏めて、金色の穴の開いたヤツに変えてくれたり、

茶色くてドッシリしたモノを纏めて、銀色のヤツに変えてくれたりする。

そうすると、ボクのお腹はとてもスッキリとして、少しだけペチャンコになる。



時々、いや、滅多にないことなのだけれど、僕のお腹がチョッピリ脹れることがある。

それは、流石にボクのお腹の空き加減を見かねた『お母さん』が、食べ物を与えてくれるのだ。

それは、ボクの記憶違いでなければ、一月に一度だけやってきて、その時ボクは、女の人の描かれたパッケージの食べ物だけでなく、

余り食べる機会のない、いつもの男の人よりもチョッピリ偉そうな雰囲気を醸し出す男の人の描かれたパッケージの食べ物まで食べることが出来るのだ。



ああ、お腹が少しだけでもスッキリとペチャンコになって、幸せだなぁ!!



ああ、お腹が少しだけでもギッチリとキチキチになって、幸せだなぁ!!





「ユウカ、この後一緒にご飯、行かない?」

 ロッカーで着替えをしていると、不意に肩を叩かれた。

「あ、行く行く!! いやぁ、やっと金欠から抜け出せたところなのよ。

今日は、思いっきり食べるぞ〜!!」

 ここ何週間かは、こういった誘いを涙を飲んで断ってきたが、今日からは違う。

 ホクホクとする財布を撫でながら、緩みっぱなしの頬を引き締めることもしない。

 明らかに怪しい人間の私を、不思議そうに一瞥すると、彼女は私の財布を見やって、

「あ〜……そういえば、給料日だもんね。アンタの給料日前の財布は、傍から見てるコッチの方が悲しくなるような状態だったもんね……」

 目頭を押さえながら言った。

「なによ、人の財布にケチつける気!?」

 これでもブランド物だぞ。

 姉からのお下がりだが。

「そりゃそうでしょう!!」




「小銭入れには、一円玉や十円玉ばっかり。札入れは空っぽなんて状態、見てる私は、涙が出そうだったわよ」


(2006.7.23 桜葉吉野)

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