ふ し ぎ


 世の中は、不思議なことでいっぱいだ。



 鬼を追い出すために豆を撒いたり、空で逢引をする恋人たちに願いを託す。

 丑の日には、何故かウナギを食べるし、ローマ司祭殉教死の日には、何故かチョコレートが食べられる。

 赤い服を着た怪しい老人は、こちらから家の中へ迎え入れなければならないし、大晦日には夜中なのに蕎麦を食べる。

 こうして考えると、何だか食べ物に関する不思議が多いみたいだ。



「雄太、そろそろ帰りましょうか」

 砂場に座って、土をザクザクと掘り返していたボクに、お母さんが言った。

 どうやら、やっと長話が終わったみたいだ。

「うん。帰ろう」

 スコップを放り出して、お母さんの手に抱きついた。

 ボクの手は砂場でついた泥で、とても汚れていたけれど、お母さんは怒らなかった。

 優しい笑顔で、ボクの頭を開いた方の手で撫でてくれた。

 犬のポチが花壇を掘って玄関を汚した時にはあんなに怒っていたのに、自分の手が汚れるのは平気みたいだ。

 そう考えると、お母さんも不思議がいっぱいだ。

「今日は幼稚園で、どんなことをして遊んだの?」

 お母さんが、ボクのお気に入りの黄色い帽子を頭に被せてくれながら言った。

「えっと、今日はね……」

 ボクは、今日体験した楽しい出来事をお母さんに話すために、上の方にあるお母さんの顔を覗き込んだ。




 毎日、毎日。

 楽しいことが起こる世界。

 ボクは、この楽しい世界をこれからも生きて行きたい。


(2006.7.23 桜葉吉野)

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