あるところに、4人のネズミがいた。
彼らは、互いに自分の素晴らしさをアピールすることにした。
非凡な彼ら、平凡な彼
「ぼくは、素敵な踊りを踊ることができるよ」
1人が言った。
「それは素晴らしい」
「さぞかし、世界中の子供から羨望の眼差しで見られることでしょうな」
「是非とも、その踊りを伝授してもらいたいものだ」
他の3人が、口々に彼を褒め称えた。
「ボクは、あの忌まわしき存在である猫を、手玉に取ることができるよ」
1人が言った。
「なんと素晴らしい」
「さぞかし、優越感に浸れることでしょうな」
「是非とも、その巧みな技術を伝授してもらいたいものだ」
他の3人が、口々に彼を褒め称えた。
「僕は、このホッペから電気を放つことができるよ」
1人が言った。
「いやはや、素晴らしい」
「さぞかし、その技術は重宝されることでしょうな」
「是非とも、その仕組みを伝授してもらいたいものだ」
他の3人が、口々に彼を褒め称えた。
最後に残った1人に、他の3人が言った。
「「「それで、あなたの素晴らしいところは?」」」
最後に残った1人は、照れくさそうに、
「いやはや・・・・・・。わたくしには、他のお三方のように素晴らしい特技はありませぬ」
前足で頭を掻きながら言った。
「わたくしにできることといえば、愛する妻と、愛しき子供たちとともに、毎日平穏な日々を慎ましく過ごすことくらいでしょう」
そして、ポケットから1枚の写真を取り出し、
「わたくしの家族で御座います。妻のネズ代、息子のチュー太、チュー吉、チュー米、娘のネズ美、ネズ沙」
幸せそうな笑顔を浮かべて、家族の一人一人を紹介した。
「みなさまのように、特出した素晴らしいところは御座いませぬが、日々を楽しく暮しております」
彼はそう言い、愛する家族の待つ、暖かい家へと戻って行った。
残された3人も、それぞれの戻るべき場所へと帰っていった。
(2006.9.6 桜葉吉野)
初出:超短編小説会ショートショート投稿