ある朝、いつもと同じように目が覚めた。



  いつもと同じようにベッドから降り、未だはっきりせぬ頭を掻きながらトイレへと行く。

 いつもと同じように冷蔵庫から朝食代わりの牛乳を取り出し、汗を流しにバスルームへ向かう。

  いつもと同じように体を拭き、髪の毛を乾かすためにドライヤーを起動する。

 いつもと同じように身支度をし、そして、テレビのスイッチを入れる。

 いつもと同じように、ご贔屓のニュース番組にチャンネルを合わせる。

 いつもと同じように男のアナウンサーと女のアナウンサーが出演している。


 しかし、いつもと違う、緊迫した様子で原稿を読み上げていた。

『今朝4時頃、×××地方をマグニチュード7.0を観測する強い地震が襲い、被災地では現在も懸命な救出活動が続いています。

 繰り返します。今朝4時頃・・・・・・──』


 ブラウン管に、灰色の、鈍く狭い空が映し出された。



 ひび割れた道路や、倒壊した建物が映し出された。

 火に巻かれ、崩れ落ちていく民家が映し出された。



 いつもと違う景色の中、泣いている人がいる。

 いつもと違う気持ちで、震えている人がいる。

 いつもと違う場所で、大切な人を待っている人がいる。




 いつもと同じように、私の時間は流れていく。




 そろそろ出発しなければ、遅刻してしまう。

 私は、時計を確認する。

 そして、いつもと同じようにゴミ袋を持ち、部屋を出た。



 ニュースで見た景色とは違い、私の見た空は青く、どこまでも広がっている。




 何の変哲もない今日という日に、小さく感謝をした。




いつもと同じように


(2006.9.8 桜葉吉野)

初出:超短編小説会ショートショート投稿

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